NHK「みんなでニホンGO!」の御用商人(理事 上田博和)

先日たまたまNHKの「みんなでニホンGO!」といふ番組を途中から見たら、「伺わさせていただく」など(所謂「さ入れ言葉」)が国会議事録にも頻出することを紹介してゐた。「伺わせていただく」とは仮名遣もをかしいし、好きな言ひ方でもないが、文法的には間違つてゐない。しかし、「伺わさせていただく」は誤りである。

さて、この誤りを指摘するのかと思つて見てゐたら、番組は、それは問題にせず、「させていただく」は「近江商人浄土真宗・他力思想」から出たもので「おかげさまで」といふ意識の言葉だから、若い二人が「結婚させていただきました」と言ふのは認められるといふ結論に持つていく。司会者は「では次に行かさせていただきます」と言つて(御丁寧に字幕が出た)次の話題に転じた。

「結婚させていただきました」は、文法的に誤りではないが、「伺はさせていただく」や「行かさせていただきます」はこれとは質が違ふ。「伺ふ」「行く」には「させる」ではなく「せる」が付くのだから、「伺はせていただく」「行かせていただく」でなくてはをかしい。そのことを番組制作者が知らないはずは無いのに、この誤用を承認したのである。

 「新常用漢字表」への追加から漏れた字

 このたび文化審議會の漢字小委員會は、常用漢字表に代る「新常用漢字表」(假稱)の試案をまとめた。新表には「使用實態に合はせ」すなはち使用頻度の高いとされる百九十一字を加へ、今まで常用漢字表にあつた「銑」「錘」「勺」「匁」「脹」の五字を外すといふものである。朝日新聞が使用してゐる常用漢字表外の漢字について、今囘追加された百九十一字から漏れた、「新常用漢字表」外の漢字を抽出してみた。

【あ】溢れ出す、阿吽の呼吸、按配、垢、呆れる、綾(綾は人名漢字)、贖う、逢う
【い】焼夷弾落胤、厭う、横溢、炒め、筏
【う】頷く、噂、兎、薀蓄、鱗、蛆虫、嘘、嬉しい(嬉は人名漢字)、紆余曲折、迂回、腎盂炎、鵜飼、謳う、鶯、云々
【え】漏洩、冤罪、叡智(叡も智も人名漢字)、誤嚥性肺炎(嚥下能力)、優婉
【お】謳歌、嘔吐、桶、鸚鵡返し、驕る、溺れる
【か】瑕疵、燗、摩訶不思議、乖離、攪乱、楓(楓は人名漢字)、鴨、涵養、疥癬、強姦、掻く、牡蠣、絣、精悍、闊歩、噛み砕く、蔭、鉦、鰹節、羊羹、「甘、酸、辛、鹹、苦の五味」、蛙、釜、柏、「先ず隗従り始めよ」、教誨師、投函、嵩む(嵩は人名漢字)、簪、宦官、踵
【が】驚愕(愕然)、伽藍(伽は人名漢字)、雁皮紙、蛾、日本乳癌学会、
【き・ぎ】几帳面、雉、愛嬌、毀棄、絆、杞憂、吃音、桐(桐は人名漢字)、ヒラリー卿、卑怯、毅然(毅は人名漢字)、動悸、軋る、矜恃、禽獣、煌めき、僅差、僥倖(倖は人名漢字)、餃子、芸妓
【く】燻製、金釘流、団栗(栗は人名漢字)、天狗、糞、嘴、廓話、蜘蛛、無垢
【け・げ】牽引、稀有(稀は人名漢字)、欅、喧嘩、腱鞘炎、秘訣、貶す、閨閥、肉髻、絢爛(絢は人名漢字)、猊下
【こ・ご】胡蝶蘭(胡、蝶、蘭、いづれも人名漢字)、拵える、軟膏、苔(海苔)、勾留、肛門、嚆矢、蒟蒻問答、粗忽、谺、狡猾、腹腔鏡手術、姑息、輿入れ、花崗岩、麹、酒肴、渾身、轟音、林檎
【さ・ざ】研鑽、鮭、些事、炸裂、冴える(冴は常用漢字)、猜疑、小鷺、魁(魁は人名漢字)、曝す、燦然たる(燦は人名漢字)、淋しい、盃(杯は常用漢字)、笹(笹は人名漢字)、囁く、臍帯血、編纂、「元の鞘に収まる」、切磋琢磨(琢は人名漢字)、怨嗟、懺悔、改竄
【し】贖罪、蒐集家、鍼灸師、娼婦、駄洒落、嗜好、閾値瀟洒骨粗鬆症、呻吟、嫁姑、復讐、茶杓、飛翔(翔は人名漢字)、頌春(頌は人名漢字)、刺繍、衣裳、血漿、逡巡、豪奢、雫、「風蕭々兮易水寒」
【じ】宇宙塵(微塵)、惹句、強靭、対峙、豊穣(穣は人名漢字)、芳醇(醇は人名漢字)、余燼
【す】手漉き紙、煤掃き、簾(暖簾)、彗星(彗は人名漢字)
【せ・ぜ】明晰、排泄、一閃、蝉、鶺鴒、奇蹟、碩学(碩は人名漢字)、陥穽、勅撰、垂涎、贅沢、喘息
【そ】艘、齟齬、聡明(聡は人名漢字)、咀嚼、忖度、楚々とした、錚々たる、聳える、錯綜(綜は人名漢字)、鬱蒼(蒼は人名漢字)、俎上に載せる
【た】「親子鷹」(鷹は人名漢字)、佇む、甘鯛(鯛は人名漢字)、辿る、托鉢、逞しい、湛える、譬え、溜息、平坦、凧合戦、焚く、春風駘蕩、黒檀(檀は人名漢字)
【だ】拿捕、醍醐味、操舵(舵手)、楕円形、橙色、騙す
【ち】軽佻浮薄、猪突猛進(猪は人名漢字)、寵愛(恩寵)、範疇、真鍮、厨房、智慧(智も慧も人名漢字)、躊躇、闖入、註
【つ】燕、綴る、杖、呟く、佃煮、繋げる、槌音、憑き物、椿(椿は人名漢字)、蕾
【て】抜擢、鼎談、剃髪、甜麺醤、身を挺して、纏足
【と・ど】黙祷(祈祷)、混沌、掉尾、外套(常套手段)、逗留、混沌、寅年(寅は人名漢字)、籐、豪宕、怒濤、脳振盪、お伽話(伽は人名漢字)骨董市、緞帳、慟哭、安堵
【な行】馴染み、鉈、茄子紺(茄は人名漢字)、滲む、贋札、賑やか、鼠、捏造、姐さん、覗く、呑む、幟、矩をこえる、乃ち(乃は人名漢字)
【は】位牌、金箔、噺、袴、巴里、叛乱、梁、徘徊、胚性幹細胞(胚胎)、囃子、偏頗
【ば】焙煎、芭蕉紙(蕉は人名漢字)、撥水加工、挽回、被曝、跋扈
【ひ・び】庇護、飄然、牝馬、雹、静謐、造言蜚語、挽く、贔屓、瀕死、逼迫、惹かれる、紐解く、廂間、甲斐性(斐は人名漢字)、雛(雛は人名漢字)、別嬪、風靡、瀰漫、鋲飾り、天秤
【ふ・へ・べ】腑に落ちない、俯瞰、麩饅頭、馥郁(郁は人名漢字)、鶏糞、扮する、襖、紺碧(碧は人名漢字)毀誉褒貶、教鞭、分娩
【ほ・ぼ】鳳凰(鳳は人名漢字)、壕、舌鋒、蓬髪、山鉾、帯状疱疹、幇助、髣髴、埃、惚れ込む、哺乳類、老舗、萌芽(萌は人名漢字)、菩薩(菩提)、標榜、呆然、種牡馬、茫漠、光芒
【ま】欺瞞、邁進(高邁)、憤懣、柾目(柾は人名漢字)、蔓延、類稀(稀は人名漢字)、髷
【み・む・め・も】瑞々しい、蝕む、毟る、瞑想、妾、斎戒沐浴、貰う、儲かる、萌黄(萌は人名漢字)
【や行】揶揄、櫓、藪、茹で卵、歪める、爪楊枝(楊は人名漢字)、鎧、甦る、執拗、夭折、遥拝(遥は人名漢字)
【ら】豪放磊落、烙印、波瀾、「大駱駝艦」、天真爛漫
【り】跳梁(橋梁)、罹患率、寂寥、殺戮、逆鱗、技倆、腫瘤、無聊、凛とした、「綸言汗の如し」
【れ・ろ】可憐、黎明、銀嶺、蓮根(蓮は人名漢字)、蜜蝋、肋膜炎、絽の着物、狼狽、聾学校
【わ】矮小化(褐色矮星)、藁、罠、大鰐温泉、鷲、侘しい、草鞋、猥褻(猥談)、碗

 臺中、繁體字の共同學習を――「知音報」3月15日號より

第11回全國人代に參加した臺灣代表(大陸内で名目的に臺灣を代表しているとされる人々)は次のやうな提案を行つた。

兩岸(大陸と臺灣)が協力して、中國語の繁體字を世界無形遺遺產として申請し、かつ、大陸での繁體字教育を强化し、兩岸の中國人子女が共同して、「中華文化遺產」を守れるやうにしたい、といふのである。

「臺灣民主自治同盟北京市委員會」(上述の代表が參加してゐる組織)の常務副主席代表・陳軍氏の話によると、最近、臺灣の民間組織である「中文數字化技術推展基金會」は、すでに、中國の繁體字を世界無形遺產として申請する過程に入つた。臺湾關係者の認識によると、この活動は、決して、簡體字を廢止して、全面的に繁體字を採用しようといふつもりではなく、むしろ「繁簡共存」を図つて、中華文化遺産を守らうといふものである。

「我々は、臺灣の民間組織や社會團體の、かういふ願ひと運動に特別の注意を拂ひ、關係部門と協議して、臺灣内の社会團體との橋渡しをすべきである」と陳軍氏は述べた。

陳軍氏は同時に、次の提案を行つた。

大陸の小學校・中學校の段階において、こころみに、書道や古詩鑑賞の課程で、繁體字の發展変遷や微妙な意義などを紹介し、學生が繁體字を理解できるやうにしてやれば、簡體字の教育にとつても有益な補充になり、青少年の中華傳統文化に対する愛情を强めることになるのではないか、といふのである。

「中央教育科學研究所學位委員會」の主任・陳雲英代表(女性)も、これに対して、賛意を表明した。陳雲英代表は、「兩岸は、『三通』(中国と臺灣が「通商」「通航」「通郵」だけは交流をするといふ方針)がほぼ完成した曉には、教育上で『第四通』を實現すべきであり、繁體字を共同學習することは、民俗感情を筯進する重要な方法である」と述べた。

陳雲英代表はさらに次のやうな例を挙げた。

スウェーデンでは、手話を全國民に普及させてゐる。健常者が聽覺障害者と自由に交流できるやうにするためである。この事實は、我々が、簡體字教育を普及させるために、有益なヒントを與へてくれるだらう」。

 國家は國語から手を引け--白石良夫『かなづかい入門』を讀んで


                          木村 貴(本會評議員

 白石良夫『かなづかい入門』(平凡社新書)を讀んだ。私は國語の專門家ではないし、專門的な批判は他の方がやつてくださるだらうから、ある一點に絞つて述べたい。要するに、言語をはじめとして、自律的な發展に任せておくべき事柄に政府の介入を許すと偉い目に遭ふから氣をつけろ、と云ふ事である。

 自律的な發展を遂げる社會的制度の代表に市場經濟がある。例へば、私は今この原稿をノートパソコン「ThinkPad」と日本語入力ソフト「ATOK」を使つて書いてゐるが、どちらも民間企業によつて作られた製品であり、政府の計劃や命令によつて製造されたものではない。政府が製作に關與してゐないからと云つて製品に不都合は無いどころか、頗る快適に作動し、便利である。經濟は政府が介入しない時、初めて十全な發展を遂げるのである。逆に、政府が經濟を管理しようとすれば、かつての社會主義諸國のやうに經濟そのものが崩潰して仕舞ふ。

 言語も經濟と同じである。個人同士の意思疎通の過程で自然に生まれ發展したものであり、政府が計劃的に作つたものではないし、作れるものでもない。政府が言語に對し規制を押しつければ、言語の自然な發展を阻害し、個人の意思疎通を困難にして仕舞ふ。これは話し言葉については勿論、書き言葉についても當てはまる。

 明治維新後、政府は義務教育を通じ、契沖假名遣を國語表記の規範として國民に事實上強制した。契沖假名遣が相對的に良く出來た表記法であつたとしても、これは日本人にとつて不幸であつたと言はざるを得ない。そもそも義務教育と云ふ制度自體が子供の教育に對する政府の介入に外ならないから、國語教育だけを論つても仕方ないのだが、もし政府が契沖假名遣だけを強制したりせず、定家假名遣を含む複數の表記法を併存させ、それぞれ自律的な發展に委ねてゐれば、假名遣は十全な進化を遂げたに違ひない。その具體的な姿を想像するのは困難だが、例へば、契沖假名遣は古代日本語に關する新たな學問的發見を取入れて變化したかも知れないし、逆に學問的發見とはかかはりなく書き言葉の保守性を發揮して舊來の表記にとどまつたかも知れない。また、使用分野によつて複數の假名遣の使ひ分けが一般的となつたかも知れない。いづれにせよ決めるべきなのは日々言葉を使ふ個人であつて、政府ではなかつた。

 だが戰後、日本は同じ過ちを犯した。昨日まで契沖假名遣を正しいと教へてゐた文部省が一夜にしてこれからは現代假名遣が正しいと言ひ始め、それを國民に事實上強制したのである。文部科學省主任教科書調査官である著者の白石氏は政府告示の前書を示しつつ、「規制を強制してゐるのでない」と頻りに強調するが、私はお役所お得意の「行政指導」を思ひ出しながら、官僚とはつくづく狡いものだと恐入つた(行政指導とは法令に明記された義務ではないにもかかはらず官廳が管轄企業等に一定の行動ないし行動自肅を求める事を指す。企業等は官廳の意に逆らつて有形無形の嫌がらせを受ける事を恐れ、「自主的」に指導に從ふのが通例である)。國語表記についてマスコミが政府の方針に唯々諾々と從つたのは情けない限りだし、大人が個人的な文章を歴史的假名遣で書く自由まで禁じられたわけでもない。だが子供が學校の國語の試驗に歴史的假名遣で囘答しても點數が貰へず、作文を提出しても突返されて仕舞ふ以上、それはやはり國民に對する事實上の強制ではないか。

 白石氏は「新假名遣で古典を書く」事も非難されるべきではないと云ふ。大いに結構、それが血税を使つた政府事業でありさへしなければ。白石氏はご存じかどうか分からないが、事實、既に幸田露伴樋口一葉の文語體作品も新假名遣で出版されつつある。私は讀む氣がしないけれども、好きな人は買へばよいだらう。その代り、例へば東西の名作を正漢字歴史的假名遣で出す出版社があれば喜んで本屋に走るつもりだ。國語問題協議會會員や會員以外の同好の士による盡力で同樣な趣味の人が増えれば、需要と供給の法則に從つて同樣な出版社も増えるだらう。歴史的假名遣によるウェブサイトやブログも普及に一定の役割を果たす筈である。かうした努力が積み重なれば、歴史的假名遣は緩やかにせよ着實な復權を果たすに違ひない。その際、どうか文科省は新假名遣の肩など持たず、「公平な立場で」舞臺の袖に引込んでゐて貰ひたい。國家は國語から手を引くべきなのである。

 新常用漢字表 言語文化継承に配慮を

當協議會評議員産經新聞東京本社顧問・特別記者の塩原経央氏による「新常用漢字表」批判が公開されてゐる。御一讀を勸める。以下はその一部。

文字はそれによって思いを巡らし、思いを伝えた遠い祖先の知恵や知識をそのままにとどめている。私たちがその恩恵に浴したように、それは子々孫々に至るまで継承されなければならない高度の公共財だ。一時代の便宜に供するためだけにあれこれいじくり回すのは、現代人の傲慢(ごうまん)というものである。

 平成十九年度國語施策懇談會を聽いて

 以下は去る三月二十五日、文部科學省の「國語施策懇談會」を傍聽した當協議會會員、上西俊雄氏による報告です。

 懇談會なら「に出席して」とすべきところだが講演會であった。文化廳の用語が特殊であるのではなく元來は懇談會であったのかも知れない。實際は文化審議會の報告であった。

 最初は前會長の講演。その講演のをはりに「實は」と前置きがあって「小學校からの英語教育には反對」との意見表明があったので思はず拍手したのであるが、「中學校の英語教育では會話が大事」だとあったのでがっかりした。會話重視の結果、英語の力が増したといふ事實があるのだらうか。筆者はアルファベットが表音文字であるといふ根本のところを教へてゐないのが問題だと思ふものである。ドイツ語やフランス語など、まづ字母の唱へ方から訓練するのに英語にはそれがない。小學校のローマ字でやったと思ってゐるのかも知れないが、そのローマ字は假名漢字變換のこともあって單なる符牒扱ひだ。だから我國の英語教育では文字と音聲とは別のこととして教へることになってゐる。もし英語教育を立て直すつもりならローマ字教育も視野に入れなければならないはずだ。

 次いで、國語分科會漢字小委員會における審議についての報告があり、「國語施策としての漢字表の必要性」といふことが述べられた。配布資料には「言語生活の圓滑化とは、當該の漢字表に基づく表記をすることによって、文字言語による傳達を分かりやすく效率的なものとすることができ、同時に情報機器の使用による漢字の多用化傾向が認められる現在の情報化社會の中で、逆に〈漢字使用の目安としての漢字表〉がなかった場合のことを考へてみれば明らかである」とあるが、ちっとも明らかでない。戰後の國語行政が漢字廢止もしくは消滅を目指したものであったことは報告にもあった通りで漢字表は、その經過措置であった。しかし消滅とはならず情報化時代になって漢字使用は逆に増えたわけである。要するに見通しを誤ってゐたわけであるから、さう詫びれば濟む話ではないか。

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 最近の新聞紙上における漢字の使用状況

本會常任理事、中井茂雄氏による調査。新聞が政府の國語政策に唯々諾々と從つてきた罪は重いが、「破たん」「ら致」と云つた交ぜ書きが減つてきたのは良い傾向だ。

朝日新聞の改善例】
※太字は「常用漢字」以外の漢字。殆どの漢字にルビが振つてあるが、省略する。

○平成十九年十月十三日
護、位、全、薬魍魎、跳梁跋扈、研着、老
○十月十七日(夕刊)
瑕疵患率、帳面、危、手き紙、破

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