私と國語(加藤忠郎)

私が國語問題協議會に入會したのは、未だ若かつた頃である。手許にある一番古い「國語國字」は昭和四十七年十月一日發行で第七十二號なので、その頃入會したと思はれる。結婚した翌年の二十八歳だつた。會誌に依ると此の年の五月に小汀利得名譽會長が逝去されてゐる。此の頃の會合は世界經濟調査會の中で行はれてゐたと記憶する。

私は大學は技術系で、會員で技術系の方は少く、理事の市川浩さんしか知らない。何故國語に興味があつたかと言ふと、中學の國語の先生が熱心な先生で、現代文法の五段活用と古文の四段活用の違ひを理論的に説明してくれて、古文の文法の論理性に惹かれたのかも知れない。

大學卒業後就職した自動車會社で報告書を書く時等、結構正しい日本語を書くやう氣を遣つた。本協會に入會するきつかけは良く覺えてゐないが、おそらくは福田恆存先生の「私の國語教室」の記事を何かで讀んで本協議會の存在を知つたのではないかと思ふ。入會してから講演會に出席したり、會誌を讀んだりして行く内に、段々と正漢字、正假名遣ひに惹かれて行き、自分でも書いてみやうと思つたが、實際に書き始めたのは、ずつと後年のことである。

自動車會社を辭め岳父の會社を手傳ふやうになつて、外部講習の報告書等を時々正漢字、正假名遣ひで書いてみたことがあつたが、餘り評判が良くなかつたので止めてしまつた。假令身内の會社でも、ビジネスに關聯してゐる分野では中々難しい。その後、何年かして、日記を正漢字、正假名遣ひで書いてみようと思ひ立ち、今でも續けてゐる。日記は子供の頃から附けて居るので習慣になつてゐて、良い練習になる。始めは分らない正漢字や送り假名があると、電子辭書で引いてゐたが、段々引く頻度が減つて來てゐる。電子辭書には廣辭苑が入つてゐて正假名遣ひも附記されてゐる。しかも漢字をクリックすると漢和字典に飛んで行き、正漢字もチェック出來、中々便利である。昔、冨山房の「大日本國語辭典」を購入したが、殆ど使つてゐない。

最近學士會の講演會で石川九楊氏の「縱に書け、縱に考へよー縱と横の文化學」と言ふ講演を聽き、その感想文を學士會のサイトに投稿したことがある。縱書きで正漢字、正假名遣ひで書いてみた。そしたらなんと採用してくれて、しかも他の感想文は横書き、現代假名遣ひなのに、私の感想文のみ、その儘縱書き、正漢字、正假名遣ひで掲載してくれた。掲載畫面を紹介する。

http://www.gakushikai.or.jp/service/event_report/report_1121.html

少しは本會の趣旨のPRに資するのではないかと愚考し、恥かしげもなく投稿した次第である。
(かとう ただを・本會評議員