「常用漢字」は撤廢が筋

MSN産經ニュースに「常用漢字 新基準は制限色を薄めよ」と云ふ「主張」が掲載された。的を射た指摘である。

常用漢字表(1945字)の改定作業を進めていた文化審議会国語分科会漢字小委員会は、「岡」「熊」「茨」など都道府県名に用いられている漢字を常用漢字とする案を、上部組織の国語分科会に報告することを決めた。こんな字も常用漢字でなかったのかと思った向きもあったに違いない。
(中略)
わが国の国語表記は漢字仮名交じり文が基本である。ここを押さえれば、見直しで文字生活の実情に少しでも近づけようとしていることには一定の評価を与えることができる。名称はなお検討課題のようだが、常用漢字表のほかに準常用漢字表を立てて、字種を拡大しようとしている方向性もよい。

「準常用漢字表」も漢字使用の制限を弱めると云ふ意味では評價出來るとの立場である。これはこれで賛同出來る。

ただし、簡単に漢字が打ち出せるので漢字多用化傾向が強まるから、むしろ常用漢字表の意義が高まるという基本的な考え方には疑問がある。
漢字は難しい、中でも字画の込んだ字は難しいというのは、これまでの国語政策の考え方の中心にあった固定観念ではないのか。漢字の中で最も多い形声文字は、字形が意符と音符の部品で組み立てられている。その字形と、字音、意味がセットになった記号だから、音声を表すだけの仮名よりもずっと分かりやすく、理解しやすいという研究もある。

「簡単に漢字が打ち出せるので漢字多用化傾向が強まるから、むしろ常用漢字表の意義が高まる」と云ふ考へを漢字小委が表明してゐるとは知らなかつた。産經ニュースが批判する通り、とんでもない考へである。

文字は同時代だけでなく、歴史を貫いて継承されるべき高度な公共財だ。出現頻度の調査資料についても戦後国語政策を反映していない戦前の文献にも同等の重きを置くなどの配慮が望ましかった。さらに、論議を深め、文化の継承の意義を重く見て、新漢字表の提示に当たっては、ルビの活用を明示するなど制限色を極力排したものとなることを強く望みたい。

唯一氣になるのは、文字が「公共財」であると云ふ箇所である。公共財とは經濟學の用語だが、經濟學において公共財とは、民間の自由な使用に任せず政府が介入すべき對象であると云ふことを意味する。しかし漢字を含め國語に政府が介入すると取り返しのつかない害惡をもたらすことを我々は知つてゐる。文字は政府のものではない。介入は一切排すべきである。制限色を「極力排」せよとの主張をさらに一歩進めて、制限そのものを撤廢すべきなのだ。(木村 貴)