夢のある市名

やや古い記事だが、四國新聞社ウェブサイトより。

平成の大合併」が進み、全国で新しい市や町が雨後のタケノコのごとく生まれている。平仮名、片仮名、合成…。市町名はというと、見た目や語感さえよければ何でもありといった感がぬぐえない。「土地の履歴を無視した安易な命名」と地名研究者らは厳しく批判する。香川で誕生した「さぬき」「東かがわ」の両市も、旧国名や県名を流用した悪例の典型だという。引き換えに、地域に根差した由緒ある地名が多く消えていくことを惜しむ声も強い。命名に当たっては合併協議会による公募や住民アンケートが広く行われているが、人気投票のような方法が果たして適切なのだろうか。
平成十五年七月十三日付「合併新市町名を考える」

記事が指摘する通りで、市町村合併等に伴ふ珍地名の亂立ほど、日本人の輕薄振りをあからさまに示す例は無いだらう。

さいたま市南アルプス市四国中央市で『日本三大珍市名』なんだそうですよ。公募結果を参考に、協議会で議論を重ねて決まった名前なんですがね…」/ため息の主は、愛媛県の宇摩四市町村(川之江市伊予三島市、土居町、新宮村)でつくる宇摩合併協議会の神田達郎事務局長。二〇〇四年四月に誕生する新市の名称が「四国中央市」に決まって以来、批判の的にさらされているからだ。/六月に協議会が行った住民説明会では再考を求める声が続出し、協議会や各自治体のホームページに届くメールでも厳しい意見が目立つ。

批判にもかかはらず「四国中央市」は發足したし、「さいたま市」「南アルプス市」もその名のまま存續してゐる。民主主義と云ふ意思決定制度の缺陷が一因だらうが、根底には大部分の日本人の歴史に對する無理解がある。

地名情報資料室主宰の楠原佑介氏=埼玉県上尾市在住=は、さぬき市の名称を「僭称(せんしょう)」と評する。小なるものが大なるものを名乗る意味で、旧国名の「讃岐」を新市名に使ったことを批判している。/今年四月に三町が合併した「東かがわ市」にも同様に手厳しい。「都道府県名を盛り込み、一種の盗用。さぬき市とともに典型的な悪例だ」。/“外野”からの指摘に対し、両市の幹部は「子供の名前に難癖を付けられたみたい」と憤まんやるかたない表情だ。

楠原佑介氏の云ふ通り、「小なるものが大なるものを名乗る」事は混亂を招く。實際、記事に據れば「さぬきと聞いてうちの市のことかと思ったら、県全体のことだった」と困惑する市民もゐると云ふ。それにしても「子供の名前に難癖を付けられたみたい」と云ふ市幹部の發言は思ひ上がりも甚だしい。市は市役所職員の「子供」ではない。

さぬき市の幹部はかう語つたと云ふ。

松原参事は「地域固有の歴史に基づくのも方法だが、それより若い人が市に夢や一体感を持てるような新しい名称にしてよかった」と語る。「名前は時間がたてばなじんでくるはず」。

「夢や一体感を持てる」市名とは一體何なのか、それがどうして「さぬき市」なのか、疑問は盡きないが、責任者がここまで自信滿々斷言するのなら、それなりの根據があるのだらう。いつその事、國の名前も「にっぽん」と改めてはどうか。きつと國民が素晴らしい夢や一體感を持てるに違ひない。(K)