土屋道雄著『増補版 國語問題論爭史』

本書は、十六年間本會會報『國語國字』の編輯を擔當した土屋氏が、國語問題が一部の人達の間だけではなく、廣く國民討論として發展して行くことを願つて、漢字の傳來と假名の發生の時代から今日に至るまでの國語國字に關する議論を客觀的資料として提出し、歴史的解明を試みた勞作である。
  
本書後書からの引用

 [會報]編輯の仕事の傍ら、私は國語問題の歴史を徹底的に調べて國語問題の歴史を書かうと思ひ立ち、神田や本郷の古本屋を數へ切れないほど漁り歩いて國語問題に關する圖書を買ひ求めた。どうしても入手できないものは國立國會圖書館へ通つて書き寫した。この時集めた資料の多くが、昭和四十四年に刊行された『國語國字教育‐史料總覽』に收録されてゐる。
 福田[恆存]先生が所持してをられた圖書や資料もすべて借りて目を通した。さうして、およそ二年をかけて四百字で千五百枚のものを書き上げた。新潮社の意嚮で三分の一位に縮めたのが『國語問題論爭史』である。私は福田先生の國語問題への情熱を絶えず感じながら、二年間この仕事に沒頭した。充實した二年間であつた。
それから四十年以上經ち、若い人達から増補版を出して欲しいと言はれ、四十年前の氣持を思ひ出しながら再び筆を執つた。私の文筆活動の原點に戻つたといふ感慨を禁じ得ない。
 [中略]私は福田先生の驥尾に附して、國語問題に深く關はることになつた。四十年に亙り、國語問題のみならず、言葉や漢字に關する本を出版し、樣々な形で意見を發表してきた。私の願ひはただ一つ、有史以來の美しい日本語、正しい日本語をそのまま次の世代に傳へたいといふことである。そんな私の目に近頃の日本語は病んでゐるやうに見える。悲鳴を上げてゐるやうに思はれる。
 學者は日本語の亂れを單なる變化だと言ひ、誤字誤用を正さうとしない。規範となるべき辭典は、無知による誤字誤用、不用意による誤字誤用、醜惡な造語を先を爭ふやうに採入れてゐる。
 福田先生は"明治以來、日本の近代化の過程において、僅かに吾々の手に殘された日本固有のものと言へば、日本の自然と歴史と、そしてこの國語しか無いのである"(『福田恆存評論集』第七卷「後書」)と書いてをられる。私達は自然と歴史と國語を何よりも大事にしなければならない。日本人を育て、日本人をつくるものだからである。
 若い人達にも本書を是非讀んでいただき、國語改革派と改革批判派のいづれが是か非かの判斷をして、この問題に積極的に參加していただきたいと思ふ。

平成十六年十二月 玉川大學出版部刊 A5判四百余頁 定價5000圓
國語問題協議會 推薦圖書(新刊)
  
福田恆存著『國語問題論爭史』(舊版)は國語問題協議會ウェブサイトにて公開中(一部準備中)である。http://www5b.biglobe.ne.jp/~kokugoky/ronsou/ronsou_hajimeni.htmを御參照下さい。